パイロットのやりがい

2011-01-27

ここではパイロットのやりがいについて話そう。

これは僕が感じたことであって、もちろんこれが全てではない。むしろ、僕と違う考えを持った人の方が多いかも知れない。

これはパイロットをやる上での楽しみとやりがいにわけて考えられると思う。
この仕事の楽しいところは

①空を飛ぶってことはやはりすばらしい経験であること
②大事なことを自分で決めるってのは実は非常に面白いということ
そして、この仕事のやりがいは、
いつか誰かが遭遇するであろう緊急事態に、自分であれば生還できるかもしれないこと

これにつきる。
①についてここで正確に説明することは難しい。この世で一番うまいハンバーガーを食べたとして、そのうまさを言葉で説明するのはナンセンスだろ?
②について。これを実感として知っている学生は少ないと思う。

例を示そう。
自分が訓練中にちょっとした非常事態に遭遇した時の話だ。

事業用操縦士の資格取得のためのチェックフライト。
大きな低気圧(台風みたいなものだ)が接近してきている。
訓練機では台風の中を飛ぶのは非常に危険なため、フライト中に台風が接近してきたらそこでフライトを中止して、空港に降りなければならない。そかし、そのタイミングを判断するのが非常に難しい。

空港周辺をタッチ&ゴーで離着陸のチェック中、外気温度計を見ると温度が急に2度下がった。
僕はここでフライト中止を決断、フルストップで空港へ帰った。
着陸してハンガーまでタクシーしている間に、ものすごいスコールが降ってきて、周りが真っ暗になった。

この判断は素晴らしい判断だとの評価をもらった。何故だかわかるかな?
これはまあ分からなくていい。気象の知識が必要になる。

簡単にではあるけど説明しておくと、大きな低気圧の中では積乱雲というものが育つ。
積乱雲ってのは日本では夏によくあらわれる、もくもくした雲で、飛行機はこの雲には絶対に入ってはいけない。小さい飛行機なバラバラになってしまうかもしれない。

そして、積乱雲の下には凄まじい雨が降る。日本で言う夕立だ。
ここからが専門的になるが、積乱雲の中では強烈な下降気流が生じている。
積乱雲はたいてい上空20,000FTとか、非常に高くまで成長している。
そして、この上空の冷たい空気が強烈な下降気流によって下に押し出されてくるため、こいつが接近してくると、まず気温が下がるんだ。

もう解ったかな?フライト中に急に気温が下がったのに気づいて、これはもうすぐスコールがやってくるからこのまま飛んでるとやばいと感じて、降りることを決断した。
ちなみに、離着陸ってのは難しい操作であるため、そのさなかにここまでを考えるのは至難の業だと言える。

よくぞここまで自画自賛できるなって思うけど、飛行機を降りたあとの自分には震えてくるほどの達成感があった。自分が一生懸命勉強して得た知識に基づいて判断を行なって、それがうまく機能した時の面白さは形容し難いものがある。

さて、最後に③について。
航空事故。これがどれだけ悲惨なものかはみんなも知っていると思う。
ナショナルジェオグラフィックが『メーデー!:航空機事故の真実と真相』という番組を制作しているので、Youtube等で一度見てみてほしい。

この悲劇を繰り返さないために、また自分が遭遇した場合にそこから生還できるように、パイロットは自分を磨き続けなければならない。
パイロットの仕事というのは普段は単調な仕事ではあるんだけど、この一生に一度あるかないか、いやほとんどのパイロットが経験せずに終わる大惨事のために仕事をしているんだと思う。