パイロットに必要な能力

2011-02-03

ここでパイロットに必要な能力についてはっきりさせておかねばならない。

前に話した『パイロットに向いている人』とはまた別の次元の話で、『フライトを行うために必要な能力』のことだ。ここまでこのブログを読んでくれている人にはもうすでにピンときているのではないかもしれないけど、列挙してみると、

一つ目に、論理的に考える能力
二つ目に、地道に準備する能力

僕はパイロットに求められる能力ってこれくらいなんじゃないかって思う。
もうひとつ、判断力ってのも入れたいとこなんだが、これはちょっと違う。というより、世間一般に口にされる判断力って言葉は僕には違和感を感じるんだ。

まあそれはさておき、順番に行こう。

一つ目の論理的に考える能力について。
これは、『あ、僕これ理系なんであります!』って人、山ほどいるだろう。
でも、それとはちょっと違う気もする。計算力とかそういう類の話ではないんだ。

そうだな、例えば車の運転を例にしてみよう。車に乗らない人は自転車でもいい。
目の前50m先の信号が黄色に変わった。

君ならどうする?ブレーキを踏むか、それともそのまま通りすぎるか?
別にどちらが正解という話ではない。

その君の選択は論理的であるかどうかだ。
そのまま通り過ぎる人が多いだろう。でも論理的な根拠があってその判断を行う人がいるだろうか?

「信号が黄色である時間が5秒。信号までの距離が50mで、時速60kmで走ってるから信号が赤に変わるまでに赤に自分は交差点を渡りきれているはず。だから、自分はそのまま渡る。」と、例えばパイロットはそういう思考をしなければならない。

なんとなく、「これくらいならだぶんいけるだろう」でものを判断してはいけないわけだ。何故なら、君のその判断で後ろにいる200人の命を奪うからだ。

実際、パイロットには「説明責任」というものがある。
フライト中に乱気流に遭遇して、お客さんがけがをしたとする。
その時、「君はなんでその高度を選んだのか」を説明できなきゃいけないわけだ。
30000FTを飛ぶなら、32000ftでなくて、28000ftでなくて、30000ftな理由だ。

これが「論理的に考える能力」が必要な理由。そしてこの例は「地道に準備する能力」が必要な理由にもなる。

さっきの信号の話に戻ろう。
こんなこと信号が変わった一瞬に考えられる人がいるわけないよな?

だから先に考えとくわけだ。
いろんな状況を想定して。

離陸直後に右のエンジンが止まったらどうする?
20000ftを通過中に電気系統が壊れたら?
どれだけ多くを地上でイメージしておけるかが、それが実際に起こった時に生還できる鍵になる。

わかるよな?上空では時間がないんだ。何かが起こってから考えてちゃ、間に合わない。

しかし、これは凄まじく地味できつい作業だ。不具合が起こる状況なんて無限に考えられるし、それら全てをイメージしておくことなんてできない。まして、それだけのことをやっても、そんな状況に合わない可能性の方がずっと高い。

昔お世話になった人でめちゃくちゃ厳しく、かっこいい機長がいて、印象に残った言葉があるので紹介したい。

『俺達の仕事はな、一生使わないかもしれない刀を、ずっと研ぎ続けるようなもんだよ』

この仕事がどんな仕事か、少しは理解できたろうか?