判断力って何だ?

2011-02-04

ここでは前回の続き、『判断力』についての話をしよう。

まず、判断力って何だ?考えてみてほしい。
こう思っている人が多いんじゃないだろうか、「判断力とは、何か選択を迫られたときに、正解を導き出す力」。

それっぽく聞こえるんだけど、よく考えてみてほしい。正解を出すのに必要な能力って、判断力なんだろうか?

具体的な話をしてみると、大学入試で数学の問題があって、これで正解を導き出す力は判断力かな?

君が裁判官であったとして、有罪か無罪かを決めるのは判断力かな?

君がパイロットであったとして、飛行中に電源系統が一系統壊れちゃって飛行を続けるのか、最寄りの空港に着陸することを選ぶのは判断力かな?

どれも違うんだよな。数学の問題を解くのは計算力や論理的な思考能力だし、有罪か無罪かを決めるのは法律や過去の判例を持って決めるだろうし、フライト中の故障に対して飛行継続可能かどうか決めるのはシステムの知識や他の条件による。

つまりは、人は判断力によってものを決めているわけではないってことだ。

判断力って、僕に言わしてみれば意味不明な言葉なんだよ。なんとなくそれっぽく聞こえるけど、結局のところ何も意味していない言葉。こういう言葉は、使った瞬間に人はその先にあるもの、その本質にあるものを考えることをやめてしまう。こういう言葉を使う人はいっぱいいるけどな。

もう一度言おう。判断力なんていう能力なんてない。
何でか?

判断ってのは、知識に基づいて行うものだからだ。上の3つの例もそう、全て知識に基づいて物事を決めてるんだ。
判断力を最初に述べた定義のように解釈している人は、判断力と、『バクチを打つ力』とを勘違いしているんだと思う。

違いが分かるかな?
俺達が考えなければならないのは、緊急事態に陥った時、例えばA案とB案が選択肢にあるとしよう。

そこで考えるべきは、「どっちの案が、生還できる可能性が1%でも高いか」だよな。
これは知識に裏づけされなければならない。

なんとなく、『A案の方が助かる可能性が高いが、俺の直感ではB案がいい気がする!』なんて考えはあり得ないわけだ。そんなやつに自分の命を預けたくないよな。

話を進めよう。
判断は知識に基づかなければならないと言ったよな。

パイロットの世界ではその知識ってのは、基本的には法律と、力学にあたる。他には外部の環境にも左右されることになる。
例えば、離陸直後にエンジンが両方止まったとする。高度300ftとしよう。
180度ターンして空港に向かったほうが生還率が高いのか、目の前の空き地に緊急着陸した方がいいのか。

素人だったら、空港に戻るって考えちゃうかもしれない。そりゃ他に選択肢がないからな。滑走路に降りる前提でいるならば。

でもそれをやると、飛行機は墜落するだろう。後ろの200人を巻き添えにして。

300ftからの高度じゃ、大抵の飛行機は180°ターンして後ろの滑走路に正対する前に地上に激突してしまう。厳密には速度にもよるだろうけど、それは無謀な判断だと言える。

このケースでは、滑空中の飛行機が反対側に機種を向ける間にどれだけの高度をロスするのか、そんな知識が判断を行うために必要になるわけだ。

これらの知識なしに行う判断ってのは、素人がヤマ勘で決めているのと大差ないんだよな。

判断力、僕も昔使ってた気がするけど、恥ずかしい言葉だなと思う。