CRMという概念

2011-02-06

ここではラインでの運航に必要なCRMという概念について語ろう。

CRM: Crew Resource Managementの略で、日本語にすると、何だろう?『クルーは二人いるんだからそれを最大限利用しましょうよ』っていう概念だ。

これが実は非常に重要で、事故調査委員会がまとめた航空事故の原因にCRMって言葉がでてくることも少なくない。

例えばこんな事故があった。本当にあった事故の話だよ。

『テネリフェの事故』と言えば、この世界で知らない人はいない。

オランダ航空のB747と、パンナムのB747が離陸滑走中に衝突し、583名が亡くなったという航空史上最大の航空事故だ。

この事故には実はこのCRMが深くかかわっている。

この事故の原因は、パンナム機がまだ滑走路を渡っている間に、オランダ航空機が離陸の許可(これを管制官にもらって、離陸する)なしに離陸滑走を始め、滑走路上で衝突した。

この原因から、『離陸許可をもらい忘れたコーパイが悪い』って言ってしまったらそこから何も生まれない。

俺達は過去の事故から何かを学び取り、もう二度と同じ事故を繰り返してはいけない。

だから、人は事故について深く考察する。

コックピット内の会話は全て録音されているのは知っているかな?
そしてこのテープは飛行機が墜落しても一番燃えにくいところに保存されている。それくらい大事なものだ。

話がそれたので戻そう。大事なことは、この事故の原因は一つではないということだ。

『チェーンオブイベント』っていう概念をご存知だろうか?これについては別のテーマで話すが、小さいミスがいくつも繋がって、そのミスの連鎖を断ち切ることができずに大事故に繋がるというものだ。

そしてその観点でこの事故を分析した結果、こんな事実が浮かび上がった。

『キャプテンはチーフフライングインストラクター(要するにすごい人)であり、この人の言葉は絶対的なものとなっていた』ということだ。

実は、離陸滑走中にフライトエンジニアが聞いている
『Is he not clear, that Pan American ??』(パンナムは滑走路から出たのでしょうか?)

という問いかけに対して、キャプテンは、
『Oh, yes』
だけで答えている。

そして、その非常に重要であるはずの、『パンナム機と衝突の恐れはないのか』という疑問に対して、それ以降誰も口にしなかった。そして、その『キャプテンがいないと言った』パンナム機と衝突した。

つまり、チームワークが全く機能しなかったわけだ。

もし、コーパイかフライトエンジニアが機長に『確認しましょう』と一言言えれば、この大惨事は防げたかもしれない。

これがCRMの重要な機能の一つだ。

CRMってのはそれだけじゃないんだが、僕はこれが一番大事なことだと思う。