ブリーフィングの重要性
あまり他の仕事ではなじみがないのかもしれないんだけど、パイロットの世界では非常に重要なことだ。
そもそもブリーフィングって何のことかわかるかな?
日本語でいうと「ちょっとした会議」とでも訳せばいいと思う。実際、僕らの仕事のなかではこれ運航の各フェーズで行われる。
例えば、『機長の義務』っていうものが航空法に決められていて、ここで『機長は出発前の確認』として気象情報や空港や援助施設の情報、機体の状況、燃料、機体の重量、積載物について確認しなければならないことになっている。
これをパイロットは『6項目』っていうんだけど、機長と副操縦士で一緒にブリーフィング形式で確認する。
さらに離陸前や着陸前など、航行の需要なフェーズの直前にも必ずブリーフィングを行う。片手で飛行機を操縦しながらだ。
これについては3つ程理由がある。
一つ目は、意思の共有だ。
言うまでもないが、飛行機は2人で操縦する。機長と副操縦士。基本的には機長が運航上の意思決定を行い、副操縦士はそれに対して意見を言ったりアドバイスをする。
またそれと同時に互いが互いを監視し合うという側面を持っている。
人間は完全じゃない。必ずどこかでミスをする可能性を持っている。
だから、たとえ相手が目上の存在である機長であっても、間違ったことをしていれば副操縦士が間違いを正さなければならない。
不安定な進入をしながらも無理に着陸に入ろうとした時とかな。
それと、2人で操縦する以上は、お互いが誤解してしまうという危険性が伴う。
例えば、ある空港から離陸を行う際に、目の前にでっかい積雲があったとしよう。
コーパイがコントロールを持っていて、『ちょっとあの雲には入りたくないなぁ』なんて思って、独断で管制官に右旋回をリクエストして針路を変える。
すると機長は『おいおい何やってんだよ!なんでいきなり針路を変えるんだ!?』なんて言って狭いコックピット内で揉め事になってしまうかもしれない。離陸直後で高度の低い時にそんなことをしていたら危険極まりない。
だから、そんなことにならないように、離陸前にちゃんとブリーフィングしとく。
「今日は低気圧の関係で空港上空に積雲が発生しています。離陸経路が雲にかかる場合は、揺れが予想されます。そんなに交通量の多い時間帯でもないので、快適性を重視して雲を避けるルートをリクエストします。」
なんてちゃんと言っとけばキャプテンも「こいつはなかなか考えてるな。」なんて感心してくれるわけだ。
次に2つ目の理由は、スレッドの共有だ。
まずこの『スレッド』って言葉は君らには馴染みがないと思うので説明しておくと、『自分のフライトの脅威となり得るもの』のことだ。
上の例ではスレッドは積雲(もこもこした雲のこと。入ると飛行機が揺れる)だ。
他にもスレッドになり得るものは無限にある。
風の変わりやすい日なんかには、ランウェイチェンジなんかもスレッドだ。
(ランウェイチェンジ:使用する滑走路が急に変更されること)
自分のフライトに対するスレッドをいかに的確に見抜くことができるかが優秀なパイロットであるかを分けると言っても過言じゃない。
そしてこのスレッドは、共有されることでさらに安全性が増すんだ。
当然だよな。車の運転をしていて、運転手だけが回りを見ているのと、助手席に乗ってる人も飛び出してくる人がいないか見てくれているのとでは安全性が違うよな。それは二つ目の理由。
そして最後の理由は、自分に対するリマインドだ。
また難しい言葉を使ったけど、大したことはない。リマインドってのは、『自分に思い出させてくれるもの』のことだ。
例えば、普通空港からの出発には出発経路や方法が決まっていて、慣れてる空港だと毎回同じ方式で出発してたりする。
でもたまに、空港の施設が点検中だったりして、いつもの違う出発経路をとらないといけない時がある。
勘のいい人は気づけよ、これはまぎれもない『スレッド』だよな。
間違えた出発経路を取ると、そこに到着機がいたりして危険だ。
だから、必ずそんな時は飛行機に乗り込む前の『出発前の確認』で共有しておくんだけど、悲しいかな、人間は忘れてしまう生き物だ。
出発前はちゃんと覚えてたのに、いざ飛行機に乗り込んで飛行機を出発させる。もしお客さんで搭乗が遅れちゃった人がいて、飛行機が遅れている。遅れるとお客さん全員に迷惑がかかるから、急いで出発させないといけない。飛ぶ高度を変える必要だってあるかもしれない。
そんな状況で、『いつもと違う出発経路で出て行かなければならない』ことが頭から滑り落ちてしまうんだ。
でも、そこでブリーフィングを行って、「今日の出発方式は…」って言い出したところで思い出すかもしれないよな?
そうやって、危険に陥る可能性を少しでも下げていくんだ。
原始的だろ?かっこ悪くすら見えるかな?
でも、それがプロってもんだ。安全のためにできることは全てやる。
君もパイロットになるなら、それくらいの心づもりでこの世界に入ってきてほしい。