フライトの基本
唐突だけど、質問だ。フライトをするにおいて、最も大事な計器ってなんだと思う?
この質問に正解できる学生はいないと思う。このサイトを読んでくれている君たちなら、フライトに関する知識が豊富になってきていると思うが、でも答えられないんじゃないかな?
実は僕も以前これと全く同じ質問をされたことがあるんだ。
別に相手はプロのパイロットじゃないよ。僕が学生だった時に、ある航空宇宙工学系の学会のお手伝いをしていて、そこに講演をしにきていた教授がいた。
自分の先生との繋がりでたまたま話していて、これからパイロットの訓練生になることを告げたら、さっきの質問をされたんだ。
彼はプロではないけど、プライベートのパイロットライセンスを持っていて、休日に趣味で飛んでる人だった。
僕は一応専門的に飛行機について勉強していたから、自信満々に答えた。
『姿勢指示計ですか?』
姿勢指示計って知ってるかな?その名の通り、飛行機の姿勢を表す計器だ。
具体的には、飛行機のピッチ角と、バンク角を見ることができる。
なんでこれが大切かっていうと、基本的に飛行機っていうのはこのピッチ角を決めてしまえば、これを動かさないようにすれば、高度や速度なんてあんまりずれないんだ。
これはフライトにおいて最も大事なことだから、詳しいことは次の記事に譲ろう。
そしたら、その教授の答えはこうだった。
『違うんだな。パイロットにとって1番大事な計器は、フライトログだよ。
ライセンスを取るのに必要な飛行時間はこのログをもとに数えるし、バカ高い飛行機の使用料もこのログタイムで決められる。飛んでる間もこのログタイムを見て、もうちょっと飛ぼうとか決めるんだよ。』
って、言いやがった。まあもちろん彼は冗談でこう言ったんだけど。(たぶん)
まあこれはこれで実は大事なことなんだけど、正解を教えよう。
フライトにおいて最も大事な計器は、『水平線』なんだ。
知らなかっただろ?ほんとだよ、プロのパイロットなら全員こう答えるだろう。
まあ計器は?って聞いといて水平線って答えるのも何なんだけど、航空会社のパイロットは一番最初の感動すべき初フライトで、これを教えられる。
水平線の位置で、飛行機の姿勢を知るんだ。水平線を見るだけで、飛行機のピッチ角と、バンク角が正確に分かる。
飛行機が滑ってたりすると、その周りの景色の流れ方が変わるからわかる。(参考:ラダーを踏むと飛行機はどう飛ぶか)
つまり、水平線を見るだけで、飛行機の3軸の全ての動きが分かるんだ。それも、目の前にある小さな計器とは違って、文字通りでっかいスケールだ。計器板を見るより、ずっと正確に判断できる。
こういうフライトの仕方を『Attitude Flight』っていうんだけど、プロのパイロットになりたいなら、絶対にこの方法で飛ばなきゃいけない。
別に水平線なんか見なくたって、高度計とか速度計ばっかり見て飛べるんだけど、すると、飛行機の姿勢が落ち着かない。
飛行機の姿勢が落ち着かないってことは、飛行機が絶えずグラグラ揺れてるってことだ。
つまり、お客さんにとって非常に不快なフライトになる。
急激に姿勢を変化させちゃうと、後ろに座ってるお客さんがふっ飛ぶ。モーメントの関係で、回転軸から遠いところほどその力が強くなるからだ。
だから、飛び始めのパイロットは、徹底的にこのAttitude Flightを叩きこまれる。とはいっても計器の針が気になるから見ちゃうんだけど、すると教官がイライラしてマジギレされたりする。というか、みんなそういう経験をするんだ、面白いだろう?
このAttitude Flightについては次章で詳しく説明しよう。