飛行機設計のパラドックス

2011-02-13

ここでは航空機を設計する上で避けては通れないトレードオフの話をしよう。

まず、トレードオフって何のことか分かるかな?

『どっちかを取るともう片方を殺してしまう』っていう現象だ。
例えば経済の話では、収益性を重視すると、リスクを負わなければならないみたいな感じかな?

じゃあ飛行機の世界ではなんだろう?考えてみてくれ。

実はこの世界ではこのトレードオフが大量に存在する。例えば強度と重量。
ちなみにこのテーマはAVIATIONの世界ではなくて、ENGINEERINGの世界の話だ。その違いは分かるかな。わからなかったらGOOGLEで調べといてくれ。

飛行機の設計においてこれほどエンジニアが頭を悩ませられることはないだろう。
飛行機は飛ぶために軽くなければいけない。これは飛行機の宿命だよな。でも軽くすると構造的な強度が失われて、衝撃を受けた時に壊れやすくなってしまう。壊れやすいってのは嫌だよ。極端な話、飛行機が墜落しても最強に頑丈な飛行機だったら乗客が助かる可能性は飛躍的に増えるもんな。

逆にだからといって強度を求めていくと重くなる。厚さ1cmの壁と2cmの壁じゃ重さは倍だ。で、重くなると飛べなくなる。いや、飛ぶのが難しくなる。詳しくは以前書いた記事:飛行機は何故飛ぶのかを読んでみてくれ。飛ぶのに必要なスピードが大きくなるよな?

スピード出そうと思うと強い推力が必要になる。すると燃費が悪くなるし、エンジンがでかくなってまた重くなる。…とどんどん考えていくと頭が痛くなってくるだろう。自分は学生時代この辺の概念設計を行っていたんだが、ものすごく嫌なテーマなんだ。

そこででてくるのが安全率っていう概念だ。

機械系を専攻していた学生なら知っているだろうが、簡単に説明しておくと、安全率とは、システムが破壊などされる最小の負荷と、システムを安全に利用できる最大の負荷との比だとwikipediaには書いてある。

例えば、車を考えてみよう。この車が壁に衝突した時に生じる力が10トンだったとする(詳しくは知らないが)。じゃあ、それの3倍の30トンにまで耐えれるように構造を作りましょうって考えで、この場合安全率はさっきの3が入る。車の安全率はだいたい3~5だと言われている。

飛行機の場合の同様に安全率を元にして設計される。ランディング時や、乱気流に入った時にうける力を元にして、安全率を掛ける。

飛行機の場合は、安全率はだいたい1.2程度しかない。

僕がこの数字を初めて聞いた時は小さいなと驚いたものだが、きっと誰か偉い人が昔決めたんだろうな。

でもこの安全率って考え方があるおかげで、エンジニアは飛行機を無駄に重く(丈夫に)することもなく、危険なほど軽く(壊れやすく)することもなくなるってわけだ。

また他にもトレードオフの例を挙げておくと、『操縦性と安定性』ってものもある。これはさっきよりも航空工学の知識が必要になるが、面白いテーマなので時間のある人は考えてみてはどうだろうか?