飛行機は何故飛ぶか?
飛行機は何故飛ぶのだろうか?
例えばボーイングのトリプル7は、荷物をいっぱい積んで約300トンだ。
ゾウが一頭でだいたい5トンだから、ゾウ60頭が空を飛んでいることになる。
どこからそんな力がでてきるのか?クレーンで持ち上げているわけでもないのに。
その答えは、空気だ。空気が飛行機を持ち上げている。
なんでそんなことが可能なのか?その答えが、『翼』だ。
世界で始めて空を飛んだのはアメリカ人のライト兄弟。
その当時世界中でこぞって誰が最初に飛ぶかと競争していたが、ライト兄弟がその中でも『翼』とずっと向き合ったからだ。
ライト兄弟は『風洞』と呼ばれる実験装置を作って、翼がどんな形であれば飛行機はよく飛べるのかを研究した。
ちなみに100年ちょっと前に作られたこの『風洞』は、今でも航空技術を支え続けている。
現在日本最大の風洞はJAXAの研究所内にあるが、例えば『スペースプレーン』と呼ばれる次世代航空機の設計する時もこの風洞を使う。
さて、翼だ。
なんで翼があると飛行機は飛ぶのか。これを説明するのは実は高校生の知識で十分なんだ。でもなるべく中学生でも分かるように説明しよう。小学生でわかったらノーベル賞を取れるからパイロットになんかならないほうがいい。
まず、感覚的に理解してもらおう。
小学生の時に使った下敷きを手で持ってちょっと斜めに向けて、そのまままっすぐ全力疾走してみてくれ。
どうなった?下敷きが上にふわっと浮き上がらなかっただろうか?向きを逆に持った人は下敷きが下に押されただろう。
これが、『揚力』ってやつだ。空気が物質を持ち上げる力。ちなみにヨットもこれと全く同じ原理で前に進む。
この『揚力』が、飛行機にかかる『重力』と同じくらい大きければ、飛行機は浮く。
分かるよな?
じゃあこれをもうちょっと物理的に表現してみる。
物理はちょっと…って思った君。それではいけない。何で飛行機が飛ぶのかわかんないようなパイロットに自分の命を預けようと思うか?わかりやすく説明するから、ゆっくりでも読みたまえ。
お粗末な絵だが、これが飛んでいる飛行機にかかる力を簡単に書き込んだ図だ。飛行機は左向きに速度V(m/s)で進んでいるとする。
重力Wはいいよな?機体の重さ300トン。つまり、300,000kgだ。
さて、この時にさっき述べた揚力Lは次の式に従う
L = 1/2 × ρ × V^2 × S × CL (kg)
さあ数式が出てきてわくわくしてきただろう?
ここで各値の説明だ。ρは空気密度 Vはさっき出てきた飛行機の飛ぶスピード Sは翼の面積 CLは初めて見るだろうが、これは翼の揚力係数というもので、翼の形によって変化する。
この式は実は面白いことを表している。
まず、空気がないと飛ばないということがこの式から分かる。そう、空気密度ρだ。空気は上空へ上がるほど薄くなるよな?空気のない宇宙へ行けばゼロだ。このρの値がゼロになれば、上の式はどうなる?
その通り、L=ゼロ になる。つまり、揚力はゼロ。飛行機は飛ばない。
次に翼がなきゃ飛ばないことも分かる。翼面積S。翼がない=翼面積Sがゼロを上の式に代入だ。
揚力ゼロで飛行機は飛ばない。
次にCL。これはちょっと難しいが、さっきの下敷きを思い出してみてくれ。下敷きの傾ける角度を変えると下敷きの浮き具合が変わるよな?このCLはそれを表している。まあ下敷きの角度だったり形だなって思っといてくれ。
最後に速度V。ちなみに速度は二乗で効いている。これが非常に大事だ。速度Vがゼロってどういうことか分かるか?
飛行機が止まっているってことだ。
勘がいいやつはもう分かっているだろう。
速度Vがゼロになれば、揚力Vはゼロ。飛行機は飛ばない。
いいか、これは大事なことだ。逆に言うと、飛行機は止まれないんだ。
これが俺達パイロットの仕事を難しくしている。
何か問題が起こった時、俺達はちょっと止まって考えるってことができないんだ。
GOOD LUCK(昔あったドラマだが、みんな知っているかな?)であったが、テイクオフしてすぐにキャビンの電気系統がアウトになったとしよう。これは迷うよ。このままフライトを継続してもいいのか、それとも引き返すか。でも考えている間も飛行機は待ってくれないんだ。その間にも飛行機は一秒間に200mというものすごいスピードで進むんだ。
じゃあ最後に上の式に具体的な数字を代入してみよう。
トリプルの重量Wは300000kgに重力係数g=9.8(m/s^2)を掛ける 翼面積Sは430m^2 空気密度ρは高度3万フィートを飛んでるとして0.4(kg/m^3) 揚力係数CLは適当に1.1にしておこう。
そしてさらに揚力Lと重力Wが釣り合ってるんだから、L=Wだよな。
以上を整理してみる
300000 * 9.8 (kgm/s) = 1/2 × 0.4 × V^2 × 430 × 1.1 (kgm/s)
Vについて変形すると、
V = 176 (m/s)
という値が出てくる。ちなみに、拳銃の弾の速さがだいたい1秒に300mだ。
もちろん、これは航空機の各パラメーターをざっくりと決めたものだからだいたいの値ではあるが、飛行機が空中に浮いているためにはこれだけの猛スピードで進んでいなきゃいけないわけだ。
飛行機が何故飛ぶのか、ざっくりと理解して頂けただろうか?