ハドソン川の奇跡
この事故はみなさんの記憶にも新しいと思う。あえてここで取り上げるのは、これがパイロットの本質だと言えるからだ。
2009年1月15日 USエアウェイズ1549便A320型機は乗客150人を乗せてダグラス空港へ向けてニューヨーク・ラガーディア空港を飛び立った。
離陸時にコントロールを持っていたのはコーパイだった。離陸から2分後、15000FTまでの上昇中3200ft(980m)で、鳥の群れがウィンドシールド(前面の窓ガラス)に当たり、すぐに2つのエンジン両方が推力を失った。
すぐに機長がコントロールを取り、コーパイは3ページにも渡るエンジン再始動の操作を行ったがエンジンは動かなかった。
機長が管制官に緊急事態であることを伝えると、管制官は全ての出発機を止め、1549便にラガーディアに戻る許可を与えた。
しかし機長は『不可能だ、かわりに Teterboro空港へ降りたい』と要請。管制官は許可を出したが機長はこれに対して『やはり無理だ、ハドソン川に降りる』と通信した。
そして、見事ハドソン川に着水した。異常発生からこの着水まで、3分間の出来事だった。
想像できるかな?特にこの『時間』に注意してほしい。
離陸してから2分でエンジンが止まって、さらにその3分後には川に降りているんだ。
エンジンが止まったのは3200ft。東京タワー二つちょっとくらいの高さだ。飛行機じゃあっという間だよな?
しかもこの3分の間にタスクを見事に割り振って、エンジン再始動、管制官と通信、乗客への注意も行っている。
もちろん一番大事な、推力を失った飛行機の操縦と、どこに降りるのが最も生存性が高いのかの判断を下している。実はこの『どこに降りられるのか』ってとても難しい。届かなきゃ死はまぬがれないし、通り過ぎてもいけない。空港に降りられればベストだが、届かないならどこに下りるのがいいのか考えなきゃいけない。
もう一度言うが、地面に達するまで3分だ。
そして、見事としか言いようがない着水。
おそらく、この機長は一度イメージしたことがあったんだと思う。『ラガーディアでエンジン止まったらTeterboroが第一候補、無理ならこの辺の平地か、ハドソン川に降りるしかないな』ってね。
これがパイロットの存在意義だろう。コンピュータにはできない。
現在じゃ着陸まで全てオートパイロットでできる。しかもコンピューターは操縦上手いよ。
でも、何千分の一かの確率で起こる非常時にこそパイロットの真価が求められる。