絶対に健康には妥協するな

2011-02-01

そのまんまでなんだが、パイロットは健康が命だ。

健康ってみんな大事だって分かってるんだけど、試験前に徹夜しちゃったり、毎日ちゃんと食事をとっていなかったりと継続するのは意外に難しい。
気がついた時だけ野菜ジュースなんかを飲んで健康になった気になってる奴は多いと思うけど、当然そんなことをしても何の意味もない。健康ってのは行動ではなく、自分自身のコンディションだ。それは継続した自分の努力や習慣の結果でしかない。

世界で一番頭がよくて腕がいいパイロットでも、フライト中に気を失ってしまったら終わりだ。
役に立たないどころか、突っ伏して操縦桿をブロックしてしまって、邪魔な存在になる。
気を失うまでいかないにしても、「胸がムカムカする」ってだけで安全に影響を与えてしまうかもしれない。

眠くて頭がぼーっとしていたら、大事なスイッチを見違えて操作してしまうかもしれない(これは現によくあることだ)。
アプローチ時に注意散漫になり、安定しない着陸になってしまうかもしれない。
離陸中に急に視力を失ってしまったら、滑走路をはみ出してしまうかもしれない。
まだまだ健康が大事な理由は列挙できるけど、こういうのを総称してこの世界では「インキャパ」という。Pilot Incapacitation、クルーの能力喪失。

パイロットは地上職と違って、「ちょっと体調が優れないから休憩させて下さい」ってことができない。
もちろん飛び上がってしまったら早退もできない。

こんな訳でパイロットは年一回、航空身体検査という健康診断を受け続けなければならない。
これは航空法によって決められているので、どこの会社のパイロットでも同じだ。
航空身体検査マニュアルというものが定められていて、ご丁寧にこの病気はダメ、あの病気もダメと書いてくれている。このマニュアルには誰でもアクセスできるので、一度目を通しておくといい。呼吸器、血圧、視機能、循環器系、腎臓、精神、耳鼻科、などなどうんざりするくらいの検査項目が並んでいる。

この航空身体検査はいつになっても嫌なもので、どれか一つでもひっかかると本当に飛べなくなる。
年のいった年配パイロットがひっかかるのはまだしも、20代の若いパイロットも時々ひっかかる。もともとなんらかの不安のある人もいるし、血圧など生活習慣の崩れで引っかかってしまう人もいる。生活習慣って、月に半分くらいしか家に帰れない、夜中も昼間も関係なく働くパイロットには管理するのがどれだけ難しいかわかるかな。

僕だって次の検査で飛べなくなるかもしれない。
誰だって健康が大事なことは分かっているだろうけど、我々パイロットにとっては文字通り、死活問題なわけだ。

だから健康を維持するためになんらかの工夫だったり、習慣を持っているパイロットは多い。
そこで僕が健康維持のために何に気をつけているのかを紹介しておこう。それはたった3つ。

運動と食事と睡眠

どれも当たり前のことだけど、そりゃそうだろう。ただ健康であるために、そんな特別なことが必要なわけないじゃないか。もちろん、先天的な理由でそれで健康を維持できない人もいるけど、ここでは一般的な話に限る。

いずれに対しても言えることだけど、この3つは継続しないと意味がない。
上でも言ったけど、いつも運動してない奴が今朝ジョギングをしてそれでなんとなく安心感を得る、なんてことがあるかもしれないけど、それは意味がない。ほとんどの場合、ひざを痛めるだけだ。

将来に渡って健康でいたいなら、継続するためのルールなり、習慣を自分につけるのがベストだ。
例えば、運動に対しては毎朝ジョギングをする。毎朝が辛いなら月水金。
朝が辛ければ夕方でもいい。

僕は夏と冬は辛いからジムに行って、春と秋のいい季節、フライト先ではジョギングをしている。決してストイックにやっているわけじゃないけど、続けていると「なんか調子悪いなぁ」とか、「最近運動できてないな」ってのが感じられるようになってくる。

そうなると後は状況によって調節すればいい。僕は大学時代から航空身体検査を見越してやっぱり色々試してみて、今の習慣に落ち着いた。運動するのが嫌ならば通学を自転車通学にするだけでもいいだろう。運動部に入ってる奴はそれでいいかもしれないし、自分の生活に運動とよべるものが入ってないのならば作る必要がある。

自分なりのハードルを作って、それを達成できるように努力をするか、努力が嫌なら工夫しろ。

それが習慣になれば苦しいことはなくなるだろう。

次に食事。これは僕もそうだったけど、親元を離れている独身男にはなかなか難しい問題なんだよな。君が料理好きの奥さんをもつラッキーな男なら、野菜をたくさん入れてくれるように頼めばいいだけなんだが。

独身男のために言っておくと、なんでもいいからとにかく野菜をとるのはそんなに難しいことじゃない。
凝った料理なんかを思い描くから難しいだけで、スーパーでトマトを買ってきて、マヨネーズをつけてかじるだけでも立派な野菜だし、果物なんかはもっと簡単に取れる。

健康って意外と金がかかるもんなんだが、金がかかるって理由で野菜を全く食べないで健康を崩したらバカみたいだしな。それに依存するのはよくないと思うけど、サプリをうまく使うのも一つの手だと思う。

最後に睡眠。

これはもういいよな。よく寝ること。パイロットになってからは難しくもなるんだけど、規則正しい睡眠リズムを作ること。

パイロットには「疲労教育」を受けさせることが最近日本でも義務付けられたんだけど、それくらい疲労管理については航空業界で問題視されている。疲労管理とはほとんど睡眠管理みたいなもんなんだけど、具体的な数字は忘れちゃったけど、『5時間の睡眠不足はビール何杯分かの注意力の低下に相当する』みたいな研究結果があるんだ。

また慢性的な睡眠不足は最終的に体の不調や病気として現れてくる。
自分は寝なくても大丈夫って奴もたまにはいるけど、そんな訳ないよな。
最近はスマートウォッチで睡眠ログを取れるなど便利になったんだし、甘く見ている人は気にしてみてほしい。

以上、あくまでこれは僕なりの健康維持への心がけなので同じことをして同じ結果が出るとは保証できないが、あまり変なことも言ってないと思う。健康には一切妥協できない仕事なので、そのつもりでいてほしい。この辺に関しては僕もたくさん勉強したけど、最後にいくつかおすすめの本を紹介しておく。