パイロットのつらさについて質問です。

いつもブログに勇気をもらっています。
パイロットの辛さについて質問です。 以前(flyingfrag.blog111.fc2.com/blog-entry-30.html)でパイロットは地味な勉強と地道な努力を続けていかなければならないとおっしゃっていましたが、詳しく教えていただきたいです。
私は将来の仕事を決めるにあたり、その仕事の地味で大変な部分に重きを置いています。
どのような仕事であっても辛い業務はあると思います。試行錯誤を繰り返し、コツコツと 思考を積み上げていくようなプロセスです。
「一晩中、実験をやっていても苦痛に感じない」「つくったプログラムがエラーばかり起こしていると、絶対に解決してやろうという気になる」「大量の注文の中から、社会制度についての考え方を読み解いていく作業が楽しい」このように、他の人が苦痛に感じることでも自分は楽しむことができるのならば、私はその仕事を続けられるだろうと考えています。
そこで質問なのですが、パイロットの地味な勉強と地道な努力とはどういったことなのでしょうか。できましたら、チェックのために対策している具体的な内容を教えていただきたいです。また、1日何時間くらい勉強されているのかについても知りたいです。
宜しくお願いします。
By Peterさん
回答
Peterさん、ご質問ありがとうございます。
辛さのところに魅力を感じるとは、なかなかドMな人ですね。
冗談はさておき、君の言う通り、どんな仕事でも辛い部分と楽しい部分があると思います。
だから仕事を選ぶ時はそのいずれも知った上で、特に辛い部分をしっかりとリサーチした上で、納得して選ぶのがいいんだと思います。実際には体感してみないと分からないところではありますが、「こんなはずじゃなかったのに…」というのはすごく勿体ないし、避けられたことかもしれません。
個人的な所感ですが、最も仕事においてストレスになる際たるものは人間関係だと思います。
僕の友人でも配属された先の上司とソリが合わなくて、鬱っぽくなってしまった人がいます。そういうケースは意外とたくさんあって、こればっかりはどうしようもないのですが、「そういうこともあるさ」とあまり深刻になりすぎず、言葉は悪いですが、異動を希望するなど逃げてしまってもいいと僕は思います。こう言うと色々語弊はありそうですが、たかだか仕事だし、そのために自分を擦り減らしてしまうことはありません。
全然話がそれてしまいましたが、本題です。
パイロットの地味な勉強と地道な努力とはどういうことなのか具体的に知りたいということですね。
前提として、訓練を終えて晴れて副操縦士としてデビューしてからの話とします。
訓練中は一世一代の大勝負、パイロットになれるかなれないかの話なのでちょっと質が違うと思います。
副操縦士として乗務が始まった後にどんな勉強をしているかというと、主に3つの勉強内容があると思います。
一つ目は定期審査、チェックというやつです。
パイロットとしてエアラインで飛び続けるためには毎年、資格更新(ではないのですが)のようなものとして審査を受けなければなりません。
これは基本的に年に2回あって、一つはSimulatorによる技能審査、もう一つは旅客便で行う路線審査です。
技能審査ではSimulatorを使って、離陸滑走中のエンジン故障や火災、与圧機能の故障など、様々なイレギュラーな事態に対してうまく操縦、マネジメントを行えるかという試験と、さらに口述審査として知識面での試験があります。
路線審査では実際のフライトを、決められたプロシージャに従って適切に行い、また急病人などのイレギュラー(実際の旅客便なので、何もなければ楽勝です)に対応できるかの試験に加え、こちらも口述審査があります。
それぞれについて勉強する必要がありますが、路線審査についてはいつも通りのフライトに加え、急病人やUnruly Passenger(安全阻害行為を行う旅客)への対処など、実運航において度々起こる事象に対してレビューして望むくらいでいいのですが、Simulatorのエンジン故障などは当然普段やらないので、その時のProcedureや操縦要領、ダイバート先をどうするか、など、様々なイメージトレーニングをしておく必要があります。
当然、エンジン故障だけじゃなくて、例えばキャビンで火災が発生した時、電気系統が壊れた時、油圧系統が壊れた時、などなど、想定される不具合は無数にあります。またそれが巡航中なのか、離陸中なのか、着陸間際なのか、というシチュエーションによっても対処は変わってきます。
それらに全部、というわけには現実的に不可能ですが、ある程度の準備をしておかないと、全く想定外の場合に出たとこ勝負!では不安ですよね。
さらに口述審査については、最近規定はどこが変わった?とか、この前あった〇〇航空の事故は何が原因だったの?とか、来年新たに〇〇空港へ就航するけど、どんな空港?とか、飛び続けている中で更新されるべき知識、他にもそこから派生するシステムなどの知識や、法律や方式などの知識を聞かれます。
法律や力学、気象など元になる知識は資格を取得する時に勉強済みであるはずですが、人間だから忘れます。悲しいことに歳をとると物凄い勢いで忘れていきます。だから規定やノートなど、様々な知識をレビューしておく必要があります。
これが一つ目のチェックのための勉強ですね。
でもこれをずっとやっているかというと、そうでもないと思います。
人にもよると思いますが、計画的な人で試験の2.3ヶ月前からゆっくり準備を始めて、という感じでしょうか?試験は年に2回あるので、それでも長期になってしまいますが。またこの審査に落ちたり低評価になると、フライト停止ということもあります。頻繁にはないですが、たまに落ちてるので全く油断はできません。
次に二つ目、これは日々のフライトの準備と復習
例えば明日飛ぶ空港が始めて行く空港であったとして、滑走路の方向はどっちを向いているのか、Approach方式はどういうものがあるのか、注意点は何か、緊急時の措置はどうなっているのか、またそこに至るRouteにスレッドはあるのか、などなど。
これは仕事のための準備だから当然ですね。
比較的ストレスも少なく、時間的にもまとまって時間が必要になるというものではないですが、この積み重ねが次の3つ目にも繋がっていきます。
最後に三つ目、機長昇格のためのお勉強
これがなかなか曲者なのかなと思います。
副操縦士になって、会社にもよりますが10年前後で機長昇格の機会が与えられます。
1つ目の定期審査で低評価になったり、フライト中に何かやらかしたり、人格的に不適格と会社に見なされたりするとこの機会が与えられないことがあります。また運もあって、JALの破綻時などは非常に優秀であるにもかかわらず機長になる機会を失ってしまった人もいました。
パイロット(副操縦士)になった後は、次に目指すものは機長です。
しかし10年後の試験のために勉強、と言われると人間なかなか思い尻が上がりませんね。
しかし、先に述べたようにネガティブな事柄に関しては悪い結果に直結してしまうので日頃の勉強は欠かせません。操縦技術もそうですが、例えば目的地の天候が良くない時などに、「これ降りていいの?」って状況が度々あります。
そんな時にしっかり規定を読み込んでいないと「こいつそんなことも分からないのか」ってなるし、規定に書かれていない部分に遭遇することもあり、そんな時には「自分はこんな風に解釈しています」なんてのが必要です。
それに加え、力学や気象、航空法、管制方式について、など基礎的な知識の積み上げ、整理が必要になります。
キツいのは、この勉強に範囲がないところだと思います。
これだけやったらOKという幅が基本的にはなく、本来的な意味では、全く想定されてない事態に、正解のない中で対処する能力が求められます。
だから終わりのない勉強、というのはなかなかモチベーションも上がらないし、辛いものだと思います。
1日何時間くらい勉強しているのかというところですが、人にもよるし、時期にもよるし、あまり参考にならないとは思いますが、僕の場合は今ラストスパートの時期ということもあり、休みの日にがっつり勉強する時で6~8時間くらいでしょうか?
仕事の日は現実的にそんな時間も取れないし、疲れてるし、あまり勉強はしません。
また休日も毎日勉強してるわけではなく、家の用事だったり、気分転換に妻と出かけたりします。
一般的なパイロットとしては、チェック前を除いてそこまで勉強はしていないと思います。
むしろ、そんな必要もないと思います。勉強する事柄が上でいう2つ目だけって時には、フライトの準備として軽くレビューする程度で十分です。
回答は以上、長くなりましたが、参考になればと思います。