新型コロナウイルスと今後の航空需要について

2020-05-03

今、高校3年生でパイロットを志しているとびうおと申します。
さて、昨今新型コロナウイルスの感染が日々広がっており、航空需要が低下しています。
いつ頃収束するのか全く検討もつきませんが、仮に今年いっぱいで流行が終わったとして、私がパイロットになるために就職活動を始める(順調にいけばですが)4〜5年後に、新卒のパイロットを採れる余裕が航空会社にはあると思われますか。
というのも、航空会社は経済の煽りをモロに受ける、と前に記事で読んだことがあります。不況の時は候補生を全く採らず、航空大を出たとしても就職できない、という状況だったそうです。
私は私立の操縦科を目指しており、家庭の環境もあり、1000万円ほどの奨学金を借りようと考えています。
しかし、航空業界が大打撃から回復している途中、もしくはテレワークなどで航空業界の縮小などにより就職できないというリスクが以前よりも増して大きくなっていくと思っています。
2030年問題などもあり、パイロットの需要と供給の釣り合いも気になるところです。
新型コロナウイルスの動向は誰にも予測できないということは重々承知しています。
しかし、航空業界にお勤めになられている方なら、中の視点からお話をいただけるのではないかと思い、質問させていただきました。
何卒、よろしくお願い致します。
By とびうおさん
回答
とびうおさん、ご質問ありがとうございます。
非常にいい質問ですね、今はこれがみんな心配なところだと思うので、新しい質問ですが先に記事にしました。
君のように奨学金を借りてまでパイロットになろうとする人にとってまさに死活問題だし、なるべく正しい情報を知らせてあげたいと考えていますが、やはり将来に対して保証はできません。
いろんな情報を収集して、家族ともよく相談して、納得のできる決断をしてください。
まず、現状についてですが、航空業界にとって非常に厳しい状態です。
航空需要の低下に対して、各社減便によって対応していますが、パイロットとしてどれくらいかというと、他社の友人を含め、一ヶ月に2.3日しか仕事がないとか、それくらいの状況です。
これだけ聞くともうダメじゃんと思われてしまいそうですが、これは危機に対する航空会社の正しい防御策で、飛行機をからで飛ばすことが最もやってはいけないことです。
他の業界と比べ航空業界は固定費が大きいと言われていますが、飛行機のリース料、税金、駐機料、会社の賃料、人件費など、何もしなくても会社のお金は減っていきます。さらに飛行機を飛ばすとそのための燃料と人件費がかかりますが、燃料費というものが思いの外高く、例えば東京から沖縄まで飛行機を飛ばしてそのもとをとるには、会社によっても大きう違うのですが50%-70%くらいお客さんで飛行機が埋まらないと利益にはならないと言われています。
つまり、300人乗りの飛行機でお客さんの数が50人しかいません、とかでは大きな赤字になってしまい、これを1日に数百便やるとあっという間に会社の資金はなくなってしまいます。だから通常羽田-沖縄間を10往復させているとして、それを朝、昼、夜の3往復くらいに絞って、飛行機の空席率を下げているわけです。
これが現状で、今後どうなっていくかということですが、まず、新型コロナウイルスの流行がいつ治るのかは僕には見当もつきません。まあそれは当たり前で、専門家にだって正確な予想はできないと思いますが、コロナによる航空への影響についてICAOがレポートを出しています。
ICAOとは国連の機関で、 International Civil Aviation Organization、国際民間航空機関の略で、航空に関して世界で最も権威のある機関の一つです。
ここのリンクを開いてください。
Effects of Novel Coronavirus (COVID‐19) on Civil Aviation: Economic Impact Analysis
引用:ICAO
国際機関だし、図を引用していいか分からなかったので、見にくいですがこの記事を読みながらレポート内の図を参照してください。
まずP5の図ですが、オイルショックや9.11、リーマンショックなどの過去の出来事と旅客数へのインパクトの図がありますが、衝撃的ですね。これだけ広域の図だとオイルショックの影響ですら潰れて見えていますが、最近の航空需要の急増の影響もあり、コロナウイルスによる旅客数の減少は凄まじいことになっています。航空業界にとって、未曾有の危機だと思います。
レポートの一部しかここでは拾いませんが、このレポートは非常によくできているので英語だけど図だけでも眺めてみれば参考になると思うので、色々目を通してみて下さい。
次にP14の図を見て欲しいのですが、過去の疫病の影響からの回復が図になっています。
2003年のSARSの時は、中国を中心で流行りましたが、およそ7ヶ月で回復したようです。
次にP25の右の図に新型コロナウイルスの流行と収束について、2つのケースを想定して、2020年12月までの旅客数(Seat Capacityなので厳密には違いますが)の予想がされています。
これを見ると2019年と比べて、最高のCaseで2020年12月において-6%、最悪のCaseで-78%の旅客数になっています。
最悪のケースでは到底回復したとは言えないですが、今回は疾病による危機であるので、基本的にはP14の図と同じく、ウイルスの脅威が去った後にはウイルス拡大回避としての旅客数の落ち込みは回復していくのかなと思います。少なくとも四年というスパンを考えるならば、新型コロナウイルスの流行は去っているだろうし、旅客数はかなり回復していると思います。しかしそれがどの程度かは、やはり僕にはわかりません。
また、コメントにもいただきましたが、息子をパイロットにしたい眼科医さんの言うように、ウイルスの流行による航空需要の落ち込みは今後も発生すると思います。採用がゼロというのは考えにくいですが、その時には一時的に採用を絞るということは起こりうると思います。
過去の例では、オイルショックの時が最もパイロットにとって採用が厳しくなったという印象があります。
僕は実はリーマンショックの年に入社しましたが、P7の図のように航空需要が急激に伸びている時期だったためか、例えば航空大を出てもパイロットになれない、という話は聞きませんでした。
また君のいうように、今回のウイルスの流行で企業のテレワークや在宅勤務、出張を減らす動きは進むと思います。
じゃあそれが今後の航空需要に与えるインパクトはどれくらいなものか、これもやっぱり正確に予想することは難しいです。
色々と調べてみましたが、こんなのがヒットしました。これも非常に勉強になります。
民間航空機に関する市場予測
引用:日本航空機開発協会
P23に世界の航空旅客輸送量の推移の予想図があり、過去のイベントによるインパクトと、2038年までの需要予測がされています。
予想の根拠はその前までのページにあります。もちろん、新型コロナウイルスが流行する前に発表された資料です。
国土交通省も、コロナ前までの将来の航空需要予測はレポートされているし、今後コロナによる影響のレポートも出てくると思うので、時々チェックしてみて下さい。
話を日本航空機開発協会のレポートに戻します。
航空需要は2038年に向かって大きく右肩上がりに増える予想がされていますが、需要の増加は主に新興国が豊かになることによる旅行客の増加が大きいと僕は思います。企業が出張として使う飛行機は減少すると思いますが、その影響は限定的で、大局的な上昇トレンドは変わらないんじゃないかなーと、希望的観測ではありますが、僕は思います。
出張の多い友人に出張は無くせないのか聞いてみたら、メーカでは本社の人間が現場の状況をみて判断しなければならないことは多いし、例えば石油のプラントのトラブルがあった時にはやはり出張していく必要があるそうです。
以上は業界全体の話です。
ここからは予想するのがまた難しいのですが、もう少しミクロな話をします。短期的に何が起こるのかというところですね。
新型コロナウイルスが収束して航空需要が回復してくるまでの1年前後の間に体力が持たずに潰れてしまう航空会社が出てくるかもしれません。僕もこれに関しては死活問題ですね。
会社ってのは難しいもので、上のように業界全体としては上昇トレンドで展望は明るいとしても、この苦しい数ヶ月で会社の資金繰りが行き詰まれば、倒産してしまいます。過去のJALやSkymarkのように復活できればいいけれど、復活できずに会社が消滅してしまうというケースも起こり得ます。そうなったら、その会社のパイロットは解雇になるし、そこから再就職をしようにもコロナウイルスの影響がなくなり、航空需要が回復するまで難しいだろうし、新たにパイロットを目指す人にとっても就職口が減ることになると思います。
航空需要が増えていくのであればその後、他の会社がその潰れた会社の分の需要を吸収することになるのだと思いますが、パイロットの雇用口というところでは減ることになると思います。
また、業界の再編もあり得ると思います。
新型コロナ、「全便運休」なら航空会社は何カ月で倒産するのか
引用:President Online
上はスカイマークの佐山会長のインタビュー記事ですが、スカイマークの便が全便欠航になってとして、銀行からの融資を入れても4ヶ月程度で倒産してしますようです。その場合は追加の融資が必要になる。
ANAもJALも融資要請を行いましたが、大手でさえ、コロナによる旅客減が長引けば苦しいと思います。
長引く場合、銀行や政府からの融資が得られなければ潰れてしまう航空会社が出てくるでしょう。
長くなりましたが、以上です。
最終的な結論としては、長期的にはパイロットの需要は回復していくと思いますが、この数ヶ月で航空会社が潰れないかという要因も大切なファクターで、それに関してはこれからのコロナの状況と、政府や銀行次第なのかなと思います。
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