パイロットは日々何と闘っているのか。
このページを読んでくれている君達ならそろそろパイロットの本質を掴み始めているだろうけど、今日はさらに具体的なところに踏み込んでみよう。
パイロットの敵は、不確実性だ。
たぶん言葉を聞いただけで、「あ、それ分かる」って思ってしまうかもしれないけど、ちょっと待ってほしい。
不確実性って、本当に理解するにはとても深いものだ。
なぜなら、真に不確実性を理解し、対処している人に光は当たらないからだ。
まだちょっとよく分からないかもしれないけど、説明しよう。ハドソン川の奇跡を思い出して欲しい。
この機長、サレンバーガー氏は、絶望的な状況から機を生還させて、英雄になった。
彼の判断力も、技術もとてつもなく素晴らしいものだと思うけれど、今日はちょっと違った目線から論じてみる。
とても優秀なパイロットがいたとしよう。彼は
「今日は鳥が多い。エンジンに吸い込むと怖いから、いつもと違うランウェイだけど、鳥が少ない方から離陸しよう。」
なんて考えて、バードストライク自体を避けたならば、その人は英雄になるだろうか?
もちろん、鳥の少ない滑走路なんてあるのか知らないけれど、例えばの話だ。
その機長は、まず間違いなく英雄にはならないよな。
結果だけを見ればサレンバーガー機長よりもずっと優秀な能力を持って、一瞬たりとも乗客を危険にさらさなかった。
でも、その功績を、誰も知ることはない。その機長自身さえ気づかないかもしれない。
だって、「そこには何も起こらなかった」からだ。一番いいことなのにな。
こういうのを、『名もなき英雄』という。
もうわかるよな?僕らの仕事は、この名もなき英雄になることなんだ。
不確実性を、徹底的に排除していく。
今の論理で言えば、優秀なパイロット程、誰にも褒められないことになる。
損な役回りだよな。でも栄光のためにやってるわけじゃないし、安全を守るってのはそういうことだ。
僕らの仕事は、毎日毎日そういう起こるかもわからない不確実性について、もくもくと対処していくことだ。それは決して派手なことじゃないし、面白くもない。
そんな仕事であることを頭の片隅に置いていて欲しい。