リチェックの最多記録を叩き出した男

一度質問に頂いたことがあるんだけど、僕の同期で、訓練史上リチェックの最多記録を叩き出した、愛すべきバカとも言える男について紹介しよう。

決して優秀とは言えないし、そうなりたいとは思わないんだけど、その鉄のごときメンタルと根性、周りの人との付き合い方など、見習うべきところがたくさんあるので参考にしてほしい。

彼は同期の中で一番歳上であり、一番下とは5歳くらい離れていたけど、自分から歳による遠慮はやめようと率先し、実際にみんなから慕われ、叱咜され、助けられた。

訓練中にみんなで勉強している時に「パイロットなりてー!」って叫び出したり、みんな自室で勉強している時にそーっとドアを開けて覗いて、「めっちゃ勉強してるやん!」と自分で焦ったり(これは〇〇君の巡回とみんなで呼んでいた。)、彼の部屋がめちゃくちゃ汚くために共用のリビングで勉強していて、そのリビングの机がやはりいつも紙が散乱していて、同期に『部屋の整理もできないやつが知識の整理なんてできるわけない』と言われていた。

たぶんその通り、彼は要領が悪く、頭の中はきっとその部屋の様に散らかっていたのだと思う。

頭の回転の速い人間ではないとまあこれらのエピソードでも伝わりそうだけど、奴がすごいのはその事を自分でしっかりと認めて、みんなに助けてもらうことを恥としなかったことだと思う。そして、周りにしっかりと助けてやらないといけないなと思えさせるほどの人格の良さがあった。

なかなかプライドが邪魔をして人に助けを請うって難しいと思うんだけど、できないことをしっかりと認めて誰かに助けてもらうというのは、この仕事では非常に大事なことだ。いや生きていく上で最強の能力なんじゃないかって気さえする。

実際彼は睡眠時間を削って必ず人よりも多く勉強していたし、チェックにフェイルして顔面蒼白になって帰ってきた時にはやはりめちゃくちゃ落ち込んでいたし(これは本当にキツい)、そんな時でも自分が何ができなくてフェイルしたのか、同じ失敗を同期が繰り返さないためにもしっかり共有して、できる奴はどんな風にやっているのか教えてもらう。自分だけ失敗してフェイルしてパイロット生命の危機にいる時にこれができるっていうのは本当にすごいことだよ。

そんな境遇であっても、自分よりもみんなのことを優先した行動がとれる人物であり、持ち前の愛嬌もあり、みんなに助けられることができたんだと思う。

僕自身も彼とたくさんケンカをしたし(バディだったんだ、大変だった。)、自分がキツい時には辛く当たったことも何度もあるけど、根本のところでの信頼というものがあり、まあ今でもそういう関係だ。

今彼は無事副操縦士としてチェックアウトして、今はそろそろ機長訓練に入るってところでまたみんなのお世話になっている。

リチェックになっても動じないメンタルをもっているわけでは決してない。むしろそんな人はいない。凹んで、もうやばいと愚痴って、でもそこから這い上がるつもりでまた頑張る。それでいいんじゃないかなと彼を見ていて思えた。