目標をどこにおくかで人生が変わる

今日はすでにパイロットの訓練生、また副操縦士に昇格したばかりの人に気をつけて欲しいことがある。

訓練中、自分の目標をどこに置くかって意外と大事で、これにより訓練の結果、またその後のキャリアが変わってしまったりする。精神論とかではなく、現実の話として。

例えば、『無事に訓練を通過すること』と目標においている訓練生と、『安全運航を守れるパイロットになること』を目標においている訓練生。

そりゃ後者の方が高尚に聞こえるし、そうありたいと思う人が9割だと思うんだけど、実行するのは意外と難しい。

どういうことか説明する前に、パイロットの訓練がどうなっているのかおさらいしよう。事業用操縦士とMPLで多少の違いはあるけど、大まかな流れとしてはまずはフライトを行うための座学から始まり、筆記の国家試験を取得後に実機を使った操縦訓練に進み、実技の国家試験を受けてパイロットのライセンスを取得する。

その後シュミレーター訓練によりジェット機の限定を取得して、最後は実際に営業便に乗り込んでLine OJT、エアラインの運航のオペレーションの練習をして晴れてチェックアウト、という順番になる。そしてチェックアウトして副操縦士として日々のフライトをこなしながら、次は機長になるための経験なり知識を積み上げていくことになる。

ここで注意して欲しいのは、基本的にパイロットの訓練は横に教官が座ることになる。一般的には教官は社内でも優秀な人がなるもんなんだけど、人間だからくせやこだわりがあったりする。

シミュレーターを使った訓練まではある程度正解というものがあって、訓練生は基本的にはその正解となる判断をピックアップしていけばいいんだけど、実機を使った運航では無限の状況が出てくるので、『これが正解』というものが決めきれない。

例えば離陸直前に経路上に雷雲が出てきたとする。
ここで考えられる選択肢としては

①そのまま突っ込む
②離陸してすぐに回避のヘディングを要求する
③離陸をやめてしばらく待つ

というのが考えられるだろう。
①はギャグでこれを取る人はほとんどいないんだけど、②と③は実際の運航の現場でも機長によって判断が分かれるところだと思う。また状況にもよる。昨日は②の判断をとった人が今日は③の判断を取ることもある。

何が言いたいかというと、『オペレーションに正解はない』ということ。
何が正しいかわからない中で、『この状況だとこっちがベターかなぁ?』という選択を考え続ける必要がある。

それで最初の目標の置き方の話に戻るんだけど、目標を『訓練を無事通過すること』においている人は教官の判断を正しいものだと考えてしまいがちになる。
というか、教官の好きそうな選択肢をとってしまう。教官は訓練生に評価をつけないといけないので、悪い評価をもらいたくない、という恐怖心が出てきてしまうためだ。

質の高い期は訓練中の情報共有がしっかりされていて、『あの教官にこんなことを指導された』とか、『あの教官はこういうオペレーションが好きだよ』とか、『口述であんなことを聞かれた』といった情報が共有される。

それで教官対策をしてしまうというのが昔からあることなんだけど、これが染み付いてしまうとよくない。A教官の時はこっちで、B教官の時はあっち。みたいなオペレーションだったり飛行機の動かし方をしてしまうと、自分の軸となる考え方が育っていかないし、何をするにも根拠が乏しいフライトになってしまう。

それでも安全に飛行機を飛ばすことはできるんだけど、機長昇格訓練とかそういう場になるとしっかりと自分の判断の根拠を説明できないといけないし、それに伴う知識も足りない、という結果になることが多い。

逆に目標を『安全なパイロットになること』においてきた人は教官の好き嫌いに左右されづらい。
飛行中はその瞬間に判断しなければならないことが多いので、一時的に教官の口出しに迎合することはあっても、ちゃんと後で『何が正しいんだろう?』と考える。またすると根拠になる規定だったり物理法則だったりを勉強しなくちゃいけなくなる。

『副操縦士訓練を通過する』という目先の出口に対しては前者の人の方が最短コースをいけるかもしれないんだけど、その後の機長昇格だったり質の高いフライトをするには後者の人の方が確実に有利になる。

よく言われることで、『誰が正しいかではなく、何が正しいかで考えろ』という言葉があるんだけど、パイロットになれるかなれないかを決める訓練という極限状態においては、安易に目先の利益を取りやすい方に流れやすい。

だから言うは易し、行うは難しではあるんだけど、頭の片隅にでも置いといてほしい。