パイロットに向いている人とは

2011-01-26

ここでは、このカテゴリ、パイロット養成道場の目的について語ろう。

しかしその前にまずはっきりさせたいことがある。

いったいどんな人がパイロットに向いているのか?
僕が就職活動をしている時に考えていた答えは...

責任感がある。
リーダーシップがとれる。
計画性がある。
判断力がある。

そのへんだ。だからエントリーシートの自己PRってものにはその辺を中心にアピールしていた覚えがある。

今考えてみると、それらは全て間違ってはいないが、正解ではない。
まず、このブログで何度も言われている前提を思い出してほしい。

パイロットに向いてる人なんていないということだ。
理由はこのサイトの冒頭に書いてある。読み返してほしい。

そこをスタートにしてほしい。つまり、『パイロットに向いていない自分を、それでも安全に飛行機を飛ばせる人間に作っていく』ことが絶対必要なんだ。

じゃあ何が必要なのか、分かるだろうか?答えは

素直であること。そして、あきらめない精神力を持っていることだ。

どうだろう、反発したくなるだろうか?「いや、チームを指揮するキャプテンになるんだからリーダーシップが一番大事なはずです」って思うかな?

でも言ってしまおう、そう思った君は、この仕事について考えが浅い。
リーダーシップって何だ?

チームをうまくまとめて一つの目標に向けて引っ張っていく能力?
君はこう言うかも知れない。「僕は大学時代サッカーサークルでキャプテンをやっていました。いろんな人がいて、なかなかチームがまとまらず、サークルが解散の危機に瀕したことがありましたが、一人一人と真剣に話し合うことによって徐々にみんながまとまって、大学のサッカー大会で見事優勝しました。」

確かに素晴らしい経験だ。そんな君なら大概の仕事ならうまくやることができるだろう。でも、パイロットの仕事は違う。決定的に違う。何故か?

コックピットでのオペレーションはツーマンセル。キャプテンとコーパイの二人。客室乗務員も同じクルーだが、ここではフライトについてのみ語ろう。

コックピット内でのオペレーションは、全てオペレーションマニュアルと呼ばれるルールに従って遂行される。最高責任者はキャプテン。

知っているかな?航空機のドアが閉まった瞬間からは会社の社長でさえもキャプテンの決定には逆らえない。でもそのキャプテンの決定はオペレーションマニュアルに従って行われる。

例えばこんなシチュエーションを考えてみよう。
羽田から那覇へのフライト。後ろにお客さんが200人乗っている。季節は夏で、沖縄には台風が接近している。

目的地がマージナルな気象条件の中テイクオフ。もちろんこの時点ですでに僕らの頭の中には最悪は関空にダイバートっていう選択肢がある。
四国の上空を通過中、那覇に台風が上陸してしまい、那覇空港のランディングミニマ(その空港に降りてよい最低の気象条件)を切ってしまう。
この状況で考えるべきは、那覇まで行って、空港上空で天気の回復を待つか、それともこの時点で関空にダイバートするか。また、空港上空で待つなら、そこで何時まで待てるのか。

この選択で、前者の選択をしたとしよう。お客さんは沖縄でのバカンスをみんな楽しみにしている、もしかしたら親の死に目に会いに行く人だっているかもしれない。

那覇の上空で待機中、天気が回復してきた。あと10分待てば天気が回復するかもしれない。でも、あと5分で関空へのダイバートのための燃料を切ってしまうとする。

ここでの君の選択はどうだろうか?

あるべきは、那覇はあきらめて関空にダイバートだ。(鹿児島に行くとかは除外しておこう)
当然だ。確かにあと10分で天気が回復するかもしれない。でも回復しなかったら?もう関空に帰る燃料は残されていない。歴史に残る惨事を引き起こす。

ここでリーダーシップを持った熱いコーパイが、『キャプテン待ちましょうよ!絶対天気回復しますから!お客さんもここから関空に帰るなんて言ったら激怒しますよ!』なんて言ったら大変だ。そんな奴はパイロットに向いていないと言わざるを得ない。

君達は後ろに200人のお客さんを載せていることを忘れないでほしい。人の命ってものはそんなに軽いものじゃない。

話が若干それてしまったが、僕の言いたいことがわかってくれたかな?
じゃあなんで素直さとあきらめないことが大事なのだろうか?

その答えはもうここまでに出てきている。
パイロットに向いてない自分をパイロットの素養を持った自分に作り上げることは簡単なことじゃないからだ。

ランディングなんていきなりできないよ。
何キロも離れたところから滑走路の一点に向かって、一定の降下角でおりていくんだ。
まずできないね。

だから、素直さが必要だ。素直に、学ぶんだ。できないことをできるようになるために、本気で学ぶ。
また、それでもできないことがいっぱいでてくる。だから、あきらめない強い精神力が必要だ。

僕が採用された後に、面接官だった役員の方と話したことでよく覚えていることがある。

『君は、あきらめない人だと思ったから採った』

長くなってしまった。ここでやっと本題だ。ここまで読んでくれた人ならきっと僕のメッセージが伝わってると思う。

このパイロット養成道場の目的は、君を、パイロットに向いていない君を、パイロットの素養を持った人間に作り変えることを目指す。

そして、本質ではないけれども、英語や論理的な思考方法など、パイロットに必要とされる能力についても言及していく。

是非、ついてきてほしい。