コックピットのジャンプシート、航空界に必要な研究について。
はじめまして。現在アメリカで航空宇宙工学の博士課程をしている学生です。
コックピットのジャンプシートに関する質問です。
私は高校生の頃から航空業界に興味を持ち、元はパイロットを目指していましたがパイロットのライフスタイルや仕事内容について(特にこのブログを通して)知り、自分には研究や物作りが向いていると判断し学問を追求してきました。いずれは自家用操縦士のライセンスを取ろうと思っていますが、やはり大型機から見える空の景色とは比べ物になりません。なので、パイロット以外の職種で大型旅客機のコックピットで飛べる人はどんな人なのかご存知でしたら知りたいです。
もう一点、もし現在の航空業界について「こういう研究があれば安全性・環境への影響・飛行時間が良くなるんじゃないか」と思うことがありましたら知りたいです。AIやドローンなどの斬新なテクノロジーの導入についてではなく、今あるシステムを改良する・少しずつ進化させるために何が必要か、パイロットからの目線で思うことがあれば教えてください。
最後に、ブログを長年続けてくださりありがとうございます。パイロットへの憧れは高校生の時も大学院生の今も変わらず、学業や研究が大変な時にここの記事をを読むと沈んでいた心にまた火がつきます。
お時間ありがとうございます。
By 茶とらの猫さん
回答
茶とらの猫さん、ご質問ありがとうございます。
学問の追求、いいですね。僕には進めなかった道ですが、日本人にそういう人が増えればもっと強い日本になると思います。また長年このブログを読んでくれてありがとう。君のような人がいることが、僕にとっても大きなモチベーションになります。
さて、パイロット以外の職種で旅客機のジャンプシートを使える人は、自社関係者や航空局関係者、管制官のオブザーブなどかなと思います。
自社の人間なら誰でも乗れるということではなく、客室乗務員やディスパッチャーがパイロットの業務を実際に見て自分の業務に活かすために乗る場合や、技術関係の部署が新しいシステムの導入の試験とかでジャンプシートに乗ることがあります。
航空局関係者は局のパイロット、試験官によるオブザーブ意外にはこれもやはり新たな飛行方式などのシステム導入とか、無線局のテストをする職の人とか、そのような人たちが社外からもオブザーブに来られます。
昔はコックピットへの入室はゆるかったんですが、アメリカの9.11以降はめちゃくちゃ厳しくなってしまいました。パイロットの家族でももちろん入れないし、正当な理由がなければ入れません。子供に職場見学をさせてあげられないのが残念ですね。
しかし大型機のコックピットから見る景色も、小さな飛行機で低い高度から見る景色もどちらも素晴らしいものですよ。大型機でも路線が短い場合とかは低い高度を飛ぶことがありますが、よりリアルに地上の風景が見えて、僕はそちらの方が好きです。高度が上がれば上がるほど、見える範囲は増えますが世界地図みたいに現実感を失っていきます。一方でそこから見る日の出なんかは感動的でもありますが。
2点目の質問「こういう研究があれば安全性・環境への影響・飛行時間が良くなるんじゃないか」ということについてですが、やはり思い浮かぶのは『脱炭素化』でしょうか。
航空の分野に限らずですが、脱炭素化については日本は世界に遅れていて、なんなら周回遅れくらいのレベルです。日本ではあまり危機感をもったニュースとして目にしませんが、世界では『このペースで気温が上がると20年後には海水面が何センチ上がって、それに伴い日本の海面に近い場所の災害リスクがこれだけ上がる』というレポートまであります。
しかしそれくらい達成するのが難しいというのが事実で、何かブレイクスルーが…というのはハードルが高いと思いますが、小さな燃費の改善だけでも飛行機の数を考えると大きな脱炭素化に繋がります。
少しでも軽い素材を開発する。少しでも燃焼効率の高いエンジンを開発する。少しでも抵抗の少ない翼を開発する。地味なことですが環境には確かに意味があることだと思います。またパイロットとしての目線で言うと、技術だけではなく航空システム全体として整備するとよりいいんだろうなと思います。例えば全ての飛行機の速度を揃えてしまえば、より混雑空港でもスムーズに(移動距離が少なく)着陸できるし、燃料や騒音の改善にもつながります。管制官の仕事も楽になりますね。また各空港のアプローチ方式とか管制方式なんかも改善の余地があるかもしれません。
単一の航空機…として見るのではなく、もう少し広い視点でものを見ると発見できることがあるかもしれません。実現のハードルは上がるでしょうが。
またそうは言っても小さな改善では増える航空需要の中でジリ貧になっていくだろうと思われるので、どこかで大きなブレイクスルーが必要になるんじゃないかなと思います。それがどういうものなのかは、僕よりも君の方が詳しいと思います。またそれができるのは、やはり研究者です。
僕がいうのもアレですが、だから日本の優秀な学生には是非とも研究への道を進んで欲しいし、研究者の待遇をあげるなど社会的な整備も必要だと思います。
夢と希望を持って頑張って欲しいです。またなんでも聞いてください。逆に未来の技術について、教えて欲しいと思います。
ディスカッション
コメント一覧
お返事ありがとうございます。ジャンプシートの件はパイロットの業務を直に見ることが自分の業務に活かせるかというのがポイントみたいですね。自分の研究がどうパイロットに影響を与えるのか、どういう方向性をつければよりパイロットのインプットを大事にした研究になるのか、考えてみます。
小型機から見える景色の魅力も確かにありますね。私は高い高度の別世界にいるような現実感のなさが好きなので低い高度で見えるディテールの魅力について考えたことがありませんでした。新しい視点をありがとうございます。
航空界に必要な研究について貴重なご意見ありがとうございます。飛行機の速度を揃えてしまうというのは面白いですね。空港付近の混雑した空間で、特にアプローチでは揃った速度が必要だと思うのですが、アプローチプレートを見た感じ速度は示されていないように見えます(間違っていたらすみません)。実際では管制官が各飛行機の速度を揃える仕事をしているということでしょうか?着陸時に必要な速度、どれだけ早く減速できるのか、などは機体によると思うのですが、大中小の様々な機体を扱う国際空港などでは一体どれほどの精度で速度を揃えているものなのでしょうか?
また、飛行速度を必ず揃えれば、安全を保つために必要とされる飛行機間の前後の距離を減らすことができますよね。前後だけでなく左右、上下の距離間も減らせば、より多くの飛行機を同じ空間で飛ばすことができる上、他の飛行機の周りを大きく避ける必要もないので飛行ルートをより最短に近づけることができます。その場合、より正確に管制官の指示または離陸・着陸などのプロシージャーを飛ぶことが必須になりますが、その様なルールが導入されたとしたら、パイロットにはどの様な影響が出ると思われますか?
色々考えさせられるお返事をいただき嬉しいです。長々とすみません。
茶トラの猫さん、ご返信ありがとうございます。
アプローチスピードについては、混雑空港ではWay Pointごとに速度が設定されてあって、これによって管制官が楽にコントロールできるようになっています。
パイロットは速度の制限に対しては+-10ktの誤差以内で飛行しなければならないことになっています。
だから空港周辺では多くの場合にATCまたは飛行方式の速度制限によりすでに飛行速度は揃っています。
しかしエンルートではそうもいかず、例えばB737などの大型機ではマック7.7とかで飛んでいる一方、B777とかはマック8.2とかで飛んでいます。高高度では速度とマックの使い分けが出るのでややこしいのですが、上の例では20ktくらいの速度の差があります。
前方にB737、後方にB777がいるなんて時はもったいなくて、トリプルがB737の速度に合わせてM78とかに減速させられますが、状況によっては速度の下限に引っかかるため減速できずに、レーダーベクターで別の方向に一度振って戻す、という風に距離を余分に飛ばせることで間隔を調節します。これが毎日世界中で起こっていますが、いったいどれだけの燃料が無駄に燃えているんだろう…と恐ろしくなります。だから設計の時点で飛行機の速度を揃えてしまえばこういうことも無くなるんだろうとは思いますが、飛行機のサイズによって適性な速度があることだろうし、難しいだろうなと思います。
飛行機の前後、左右の間隔は速度によらず国際的な設定基準で厳格に定められています。
例えば羽田空港の『同時並行進入』とかはランウェイ34Lと34Rに真横に並んで飛行機がアプローチできますが(めちゃくちゃ近いので見てみると面白いですよ)、これができる空港の施設や飛行機の装備品の要件なんかが決まっています。
上下についてもHNDのRW22と23は500ftくらいの高度差でアプローチ機が交差しますが、パイロットには守るべき制限が決められています。
これらはすでに実装されているのかなと思います。
こうやって話しながら考えるとすでにいろんな試行錯誤がされているんだなぁと感心してしまいますね。
しかし研究者というと専門分野に注力してしまいガチだと思いますが、こういった行政面も含めたプロジェクトも絡めて研究開発ができると面白いかもしれません。