パイロットは高度が低いと落ち着かない。

2011-06-18

何言ってんのか意味がわからない人も多いだろう。でもこれは飛行機を飛ばすようになれば誰でも分かる。パイロットにとって、大事な感覚だ。

まずは質問してみよう。一回のフライトの流れで、どこが1番危険だと思う?または、どこが怖いか分かるだろうか?

こらに対する解答は、人によりけりだ。

まず間違いなく「離陸」か「着陸」った答えるパイロットが大多数だろう。

僕は個人的に着陸が苦手なんだけど、それは技術の問題だからここでは置いておこう。
着陸か離陸かの議論はまた別の機会に譲るとして、ここでは別の大事なことに触れる。

離陸も着陸も共通して言えるのは、「高度が低い」ということだよな。
高度が低いと、何が危険か分かるか?

正解は、『時間がないこと』だ…ってことは前にも言ったと思う。
もう一つ、『選択肢が狭まる』ってことも覚えといてくれ。上の時間がないことと同じような意味あいなんだけど、重要なことがある。

ここまで言って申し訳ないんだけど、ちょっと話を戻そう。

離着陸時におこる飛行機の異常ってどんなことがあるだろう?

一番に思いつくのは、エンジン停止かな?他にも火災、電気システムの異常、脚が上がらない(降りない)など、構造的な異常、あと忘れてほしくないんだけど、『ストール』ってものあったよな。ピンとこなかった人は読んでみて欲しい。(参考:ストールという現象

上の異常事態に対して、君たちは聞いただけで怖いと思うだろうけど、実は僕らパイロットにとってみれば、高度さえあればたいしたことではない。いつも訓練でやってる。対処できないやつはいない。

火災を除いて。

火災だけは、火が燃料に燃え移る前に、火でかくなってキャビンに回る前に飛行機を降ろさなきゃいけないんだけど、ここで言いたいのはそこじゃないからちょっと置いておこう。

さっきも言ったけど、例えエンジンが止まったとしても、高度が高けりゃ何も恐れることはない。

もちろん、異常事態を甘くみちゃいけないけど、必要以上に絶望的になってもいけない、という意味でだが。

そもそも2つあるエンジンが両方止まるってことは確立的に限りなく低いし、仮に両方のエンジンが同時に止まったとしても、飛行機はグライダーみたいに、あるいは紙飛行機みたいに推力なしに降りていける。

飛行機の巡航高度を1万メートルとして、そこでエンジンが止まっても、実は飛行機はそこからおよそ高度の20倍、つまり200kmの範囲までたどり着けるんだ。

『滑空比』とか、『揚抗比』っていう各飛行機のパラメーター(まあ能力みたいなもんだ)があって、その値が大きいほど滑空できる距離が増える。

200kmつったらどれくらいだ?都内から富士山くらいの距離だ。

その範囲で降りれる空港や、だだっ広いスペースなんかを見つければいい。

エンジンの再始動にかけられる時間もたくさんある。

でも逆に高度が低いと?

飛行機が滑空していける距離が短くなる。つまりは選択肢の幅が狭くなるわけだ。
離陸した後、高度50mでエンジンが止まっちゃたら、そこから1kmの間に降りれる場所を探さないといけない。もちろん、後ろの滑走路に下りようと急旋回したら、飛行機がストールする。そうなったら間違いなくあの世行きだ。

着陸時でも同じだ。滑走路を目前にして、エンジンが一つ止まったとしよう。

すると飛行機はどういう動きをするかわかるかな?

飛行機は、急激なヨーイングを起こす。
ヨーイングがわからない人はこっちを参照だ。(参考:飛行機の動き、自由度

飛行機は左右の翼についているエンジンが引っ張っているんだ。

飛行機の模型を持ってる人は、両側のエンジンを引っ張ってみてくれ。(双発機じゃない場合は左右のエンジンがあるだろう部分を持ってくれ)

そして、片方の指だけ離す。

飛行機は首を振るよな?それとおんなじことが起こる。

同時に推力が減るんだから、飛行機は滑走路直前で首を振りながら落ちていくわけだ。
パイロットはこれをコントロールしなきゃいけない。もちろん、これもできなきゃパイロットになれない。

少しでも対応が遅れたら、もう間に合わない。

だから離着陸の際は、いや高度が低い場合は怖いんだ。一時も気を抜けない。
今日はここまで。ちなみに、飛行機の模型を持ってない人は小さいのでいいから一つくらい持っておくといい。

実際、パイロットになってからもこれを使っておおいに勉強できる。自分が将来乗りたい型式の飛行機を買って、机の上にでも置いておけばモチベーションも上がるってもんだろう。