パイロットの使命

以前『パイロットが変えていくべき使命とは?』というとてもいい質問をもらいました。
その時もちゃんと考えて記事にしたんだけど、なんかピタッとハマらないなとずっと気になっていました。歯に詰まったほうれん草のように。

僕は『やることリスト』を作るのが好きで、というかくせになっていて、僕のiPhoneにはたくさんのリストがあります。
『買い物リスト』はもちろん、『やることリスト』や『勉強することリスト』『読みたい本リスト』『映画リスト』…。リストがありすぎて逆に使い勝手が悪くなってしまっているキライすらある。

実はこのくせがついたのは実機基礎訓練の時で、当時は勉強しないといけないことやフライトでできるようにならなければならないことがありすぎて、『今週やることリスト』みたいな感じで付箋に書いて勉強机に貼っていた。当時はiPhoneもなかったしね。
これが非常に有意義だったので、ぜひみんなにもおすすめしたい。書かれて目の前にあると強迫観念みたいに『やれ!』というプレッシャーになるので、リストが残っている状態が気持ち悪くなる。結果、ちゃんともれなくやることができる。

それで『ブログやることリスト』にこの『パイロットの使命』というのが1年くらいずっと入っていて気持ち悪いので、時間の取れた今考えてみたいと思う。

前置きが長くなりました。

もともとは『パイロットが変えていく使命』というお題でもらったんだけど、変えていかなければならないものと変えてはならないものもあると思う。
なので『パイロットの使命』として深く考えていきたいと思う。こちらの記事が前提になっているので、読んでない人は先に読んでほしい。

当たり前なんだけどパイロットの使命というのは『お客さんの安全を守ること』になる。
そしてその方法論が変化してきていて、最近ではTEMとかMCCという言葉がKeywordになっている。

この辺の話は『これからのパイロットにはコミュニケーション能力が必要?』を読んで欲しいんだけど、昔は安全を守るものは『操縦の腕』だと思われてきたものが、コミュニケーション能力を含めたパイロットの総合能力であると変わってきた。
この辺は『パイロットに必要な能力』に書いています。

僕は次に来る安全への方法論を予測しているわけじゃなくて、『こうやって安全のための方法を変え続けていくこと』そのものがパイロットとしてやるべきことなのかなと思う。

現在有力であるとされているTEMやMCCも完璧ではないし、今後さらにテクノロジーの進んだ飛行機が世に出てくる中で、既存の安全管理では対応できなくなるかもしれない。
そこの変化を最初に感じ取れるのは最前線で飛行機を飛ばしているパイロットなわけだし、『この方法はもう意味がないよなー』とか、『こう振る舞った方がより安全なんじゃね?』というのは結構現場では出てくるものです。

実際CRMやTEMが世に認知される前にも、『CRM的なもの』は現場ですでにたくさん使われていて、それを方法論として誰かがまとめたにすぎないんじゃないかと。
自分だけの判断で勝手に『My Own Procedure』としてやってしまうのは問題なんだけど、『ここに気をつけています』という暗黙知的なものは結構大事で、それが市民権を得ると正規のProcedure化されていく。
これからAIに対応した飛行機が出てきたり、一人乗りの飛行機が出てきたり、超音速の旅客機が出てきたり、ドローンや空飛ぶ車との共存が必要になったりと、たくさんの変化が飛行機の運航にも出てくると思う。

そこですでにある知識や知恵に固執することなく、頭を柔軟にして、『より安全なるもの』、つまり次世代の安全管理の方法論のタネを考えていくことが必要なんじゃないかと思う。意識の高いパイロットは。

さらにもう一つ、パイロットとして忘れてはならない使命は『高みを目指すことと、後進を育てること』

空を飛ぶというのはそれまで誰も経験したことがないことで、当然ながら最初からうまくできる人はいない。
パイロットの訓練生には会社や学校から『初期訓練』というパッケージでその知識や技術が提供され、教官という役職を持った人がそれを行うんだけど、これは副操縦士として空を飛んでいいよという最低限のレベルになる。

この最低限のレベルというのは『機長が急に心不全で倒れても自分一人でどこかに飛行機を安全におろせる』とか、通常フライトでも『機長のミスをカバーできる』とかのレベルで、もちろんこれも簡単なことではないんだけど、これで満足されては困る。

副操縦士のエントリーとしてはそれで良くても、その後機長にならなければならないわけだし、それよりも『安全に飛行機を飛ばし続けること』が求められるのだから、常に高みを目指して学習し続けなければならない。これについては次の記事で話そうと思う。

また後進を指導するのはなにも教官だけの仕事ではなくて、機長から副操縦士へ。また副操縦間でも先輩から後輩への教育はとても大事で、特に近い先輩から後輩訓練生に訓練で『どんなことで失敗しやすいか』『どうしたらうまくいくか』という情報を伝えてあげることは、時に教官から指導されるよりも効果的な場合がある。というかずっと効果的だと思う。

実際に自分たちがこの前そこで失敗してきたんだからね。

正直後輩のために自分の時間を使うというのは面倒なことなんだけど、やはりこれはパイロットとしての責務なんじゃないかと思う。
僕も基礎訓練時に直近の先輩に色々なことを教えてもらってきたんだけど、今でもその時の恩は忘れていないし、尊敬してるし、今でもめちゃくちゃ仲がいい。いい関係性だなと思う。

ということで今日はこれくらいにします。歯に詰まったほうれん草が取れてスッキリしました。